ちょうちょは風で運ばれる

秋田県田沢湖で絶滅したと思われていたクニマスが、山梨県の西湖で見つかった件、もうあちらこちらで報道されている。

見つかった経緯は
京都大学の中坊徹次教授が今年2月にさかなクンにクニマスのイラストを頼んだことだった。
しかしクニマスは絶滅しホルマリン漬けの標本しかなく、変色している。
そこで参考に「ヒメマスと比べて書いたらどうか」と中坊教授に言われ、さかなクンが少子に頼んでヒメマスを取り寄せた。
取り寄せたヒメマスの中の西湖からのものに、どうみても黒いクニマスのような魚体があった。
さかなクンが中坊教授に見せに行き、これはクニマスではないかと言う事になった。
それが3月の話。
そして4月に中坊教授とさかなクンが一緒に西湖に出かけて刺し網で捕獲した中にクニマスがかかり、詳細に分析した結果、今回の発表になった。

内容的には形態を比較した結果、えらや消化器官の形などがクニマスと一致し、遺伝子解析の結果ヒメマスとは異なり、ヒメマスと交雑したものではない事が明らかになったそうだ。


山梨県の西湖にはクニマスが絶滅する5年ほど前に、クニマスの卵が10万粒運ばれた記録が残っていて、おそらくその時に放流されたクニマスが生き残っていたらしい。
地元の漁師はクロマスと呼んでおり、クニマスとはまったく思わずにいたそうだ。



クニマスが絶滅したのは、クニマスが生息していた田沢湖に1940年、強酸性の玉川温泉が流れ込む玉川の水をダムでの電力供給や農業用水に利用する為に田 沢湖に引き入れてしまい、その後1年足らずでクニマスをはじめスナヤツメやイワナ、サクラマス、アユ、ウグイなどが絶滅してしまった。

今回の一件が騒がれるのは、一度絶滅したと思われた生物が再発見されたという前代未聞の出来事であり、また70年前の記録でしか残っていなかったクニマスの生態や遺伝子の研究ができるようになることで、魚類研究者にとっては大騒ぎになるビッグニュースだったからだ。



しかし今回の件で気をつけなければいけないこともある。
クニマスが生き残っていたのは西湖にクニマスの卵が運ばれたからだが、安易な移入は遺伝子の交雑を招き、生態系を壊す恐れがある。

たまたまクニマスはなぜかヒメマスと交雑をしていなかったが、本来ならその危険性はあった。
もちろん過去にはクニマスも含めて国内での種の移入、海外からの移入が行われてきたが、その結果はたいていはなかなか解決しない永遠の問題を残す事になっている。

なので、本来の生息地でない場所への移入･放流は非常にデリケートであって避けるべきだと言う事を肝に銘じておかなければならないだろう。
今回は本当に”たまたま”だったのだから。


今後は田沢湖の状況を調査し、田沢湖へのクニマスの再導入の話も出るだろう。
もともと田沢湖にいた種ではあるが、これも詳細に調査をし、検討を重ねて、再導入した場合のその後を検証する必要がある。

とはいえいなくなったと思っていた生物が生き残っていたのは素直にうれしいと言う感情をみんなが持つと思う。
今は素直に喜べばいいんじゃないかなとは思う。
いやたいしたもんだ。